私が小学四年生の頃、北海道は●高町立●高小学校に通っていた頃の話です。
その小学校は、当時改築4年の新品校舎で、お決まりの怪談とは縁遠いものでしたが、そこの蔵品の中に江戸時代から伝わるひな人形と明治初期の青い瞳のセルロイド人形があり、それは毎年ひな祭りの前後1週間玄関ホールの飾りになっておりました。(今でも恐らく、そうでしょう) そのため、その人形にも、あまたの例にもれず”髪が伸びる”、”夜泣きする”などのウワサがつきまとい、小さかった私はあまり近寄らなかったのです。
その年の夏休み、毎年恒例の学年合宿が行なわれ、それは学年毎に一泊してカレーを食ったり、肝試しをやったりと、まぁ様々な催しのある楽しい行事なのですが、その年の合宿で面白いことがありました。
夜更かし、それも男子ばっかで1クラス占領してのことが楽しくて、私達はスリーピングバックをよせあって”誰それと誰それがくっついた”の”はなれた”の”かわいい”のと、まぁ色ボケの話しをしておりました。時計は12時をすぎたかどうかという頃、興奮して眠れない連中は更に変な会話に興じていたところ、友人N君がふと廊下に人影を見つけました。 見ればとなりの教室で寝ているはずの同室の女子がふらふらと歩いているではありませんか。トイレか?、とも思いましたが、トイレは少し手前、ここまで来る必要はありません。ドアを開けて覗いていると、そのまま階段を降りていくではありませんか。私たちは、そっと後をつけてみることになりました。
その子は、ふらふらと玄関ホールを素通りして体育館方向へ。そして、向きを変えると用具室の前で立ち止まり、その鉄製のドアを開けようとノブを回しはじめたのです。ところが当然カギがかかっている。しまいにその子はドンドンと狂ったようにドアを叩き始めたのでした。
「おい…どうしよ」
「代表委員、止めろよ!」
と、私(つまり代表委員)を前方に押し出してその子のもとへ行くことに。私は観念して
「あの…ねぇ?」
「あ…姉ちゃん。…ここ、開かないの?」
そう答える彼女の声はうつろ。ふだんコロコロよく動く子なだけにそれは恐ろしく感じました。
「開けてって、鍵は先生のところだし…こんな時間、何出すの?」
「そう、ここ。あたし、こわしちゃったの」
「何を?」
「人形のケース、棚から落として…」
「へ?」
そしてまたドアを開けようとするので私たちは何とかなだめすかして、引きずるように彼女を連れていきました。が、その時の彼女の抵抗する力は凄まじいものでした。
次の日先生に聞くと、確かに青い目の人形のケースは前日のドッヂボールの用意のとき、あやまってこわしていたそうで、そのことを先生に謝っていたそうです。しかし、私たちはそんなことは初耳。しかも彼女は全く昨夜のことを憶えていないという。しまいに、昨夜の夜更かしを先生に怒られるは、その子には(こともあろうに私が)思いきりビンタされるは、というオチがついてこの事件は終ったのでした。
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